カポエイラ・ゴスペルって聞いたことありますか?
私は知りませんでした。知ったきっかけは、つい昨年10月14日にブラジル版BBCが配信した記事です。とっても興味深い内容で、今回のカポエイラ探検隊2018の筆頭テーマに掲げてきたくらいです!
BBCの記事が「capoeira gospel」となっていたので、カポエイラ・ゴスペルと書きましたが、これ以外にも「capoeira evangélica」「capoeira cristão」という呼び方もあります。
一言で言えば、プロテスタント系のキリスト教徒が教化の手段としてカポエイラを教えているということです。
何が興味深いと思ったのか?
私の知り合いで、これまでにプロテスタントの改宗したためにカポエイラをやめた人たちが結構います。有名なところではヘプーブリカ広場の日曜ホーダで歌っていたアルエイラ。コントラ・メストリ・ハファエウがCDの冒頭で自分の師匠の一人としてオマージュをささげていますが、95年に私がヘプーブリカのホーダを見に行っていたときには、メストリ・アナニアス、アルエイラ、メストリ・ジョエウといったメストリたちが共演していた黄金時代の最後の時期でした。ところが数年後にブラジルに戻ったとき、アルエイラの姿が見られなかったので、友人に訪ねた時に帰ってきたのが「Ele virou crente(彼はプロテスタントに改宗した)」という答えでした。私にしてみれば信じられない話です。あれほどの歌唱力に恵まれ、周りからも認められていた人が、ぷっつりとカポエイラから足を洗おうと思えるほどのプロテスタントってなんなんだ?恐ろしいな~というイメージを抱いたものでした。
その後私の周りの生徒たちの中にも同じ動機でカポエイラから遠ざかる人たちに気づきました。
しかし次のショックはリオのガト・フェリックスでした。メストリ・フッソの弟子で、その動きたるや神の子ともいえるほどの凄さでした。その彼がカポエイラを止めるなんて。フェハドゥーラから聞いた時は耳を疑いました。その理由も「Ele virou crente」だったのです。
プロテスタント系の教会は、カンドンブレなどのアフロ・ブラジル系の宗教を邪宗として差別してきました。カンドンブレの神聖な楽器アタバキも悪魔を呼ぶものと決めつけられたのです。実際にはカンドンブレとカポエイラとは別物ですが、歴史的には同じアフリカにルーツを持つ文化として、抑圧されるタイミングも解禁されるタイミングも似たようなプロセスを経験してきました。
そこでです。これまで多くのカポエイラを(私にしてみれば)奪ったプロテスタントが、今度は信者を増やすためにカポエイラを利用するなんてありなのか?というのが私の素朴な疑問でした。たんに節操がないという単純な話でなく、これまで悪魔として扱ってきた文化を、どういう整合性をもって受容できるのか?自衛隊の憲法違反なんて霞んでしまうくらい深い問題に思われたのです。
そこで少し調べてみたら、いわゆるカポエイラ・ゴスペルの先駆け的な動きは1989年にメストリ・ショコラッチという人から始まっているらしいということがわかりました。そしてその人はサンパウロ州のサントスにいるということ。ならば直接会ってどういうことなのか、全部疑問をぶつけてみようということで、今回(3月13日)アポを取ってお話を聞いてきました。
するとBBCの記事では書かれていない、カポエイラ・ゴスペルの中での多様性というのも見えてきましたし、私たちのような「一般=非プロテスタント」のカポエイラと実際には何も変わらないということが分かってきました。本当はここからが面白いところなのですが、今日はこの後ハファエウの新しいCDの発表会があるので、ちょっと出かけてきます。またいずれ名古屋でもカポ探の報告会をやろうと思ってますので、関心のある方はお楽しみに!
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